承継コラム vol.14

「正直に真実を伝える」


「正直」という言葉は、人間が正しく生きていく上での基本であり、最も尊ぶべき倫理項目の一つです。江戸中期、商人道を教え広めた石田梅岩(1685-1744)という人がいました。梅岩は、「商人と屏風とは直(すぐ)にては立たず」の俗諺(ぞくげん)の意味を、屏風は歪みがあれば真っ直ぐには立たないように、商人も同じように正直でなければ成り立たないと解して、商人の正しい道は「正直」にあることを強調し、江戸商人の事業基礎となりました。

「正直な者が馬鹿を見る」といった俗諺もあり、確かに一時的に正直な言動をしたため損をすることもありますが、長い目で見たら決して損なことはありません。むしろ「正直は一生の宝」の格言の通り、あの人は正直者だという信頼・信用を得て、将来必ずや成功や幸福を得るものです。一時人を騙しても天は騙せません。正直の人生は、時が経って天を通じて世間の心に浸透していくものです。ただここで「正直」と言っても、ある事物や事実を、見るところや聞くところ、あるいは感じたところが異なれば、人によって随分と異なるものです。「正直に」と言っても、「木を見て森を見ず」の諺の通り、事物の一部を見てこれが真実と断定し、実際事実であっても真実と異なることがよくあります。

「昔、ひとりの王があって、象を見たことのない人を集め、目かくしをして象に触れさせて、象とはどんなものであるかを、めいめいに言わせたことがある。象の牙(きば)に触れた者は、象は大きな人参のようなものであるといい、鼻に触れた者は、杵(きね)のようなものであるといい、足に触れた者は、臼(うす)のようなものであるといい、尾に触れた者は、縄のようなものであると答えた。ひとりとして象そのものをとらえ得た者はなかった」という昔話があります。 このように触った場所によって、人それぞれ受け取り方が異なるわけで、現代の複雑社会・情報過多社会においても同じようなことがよくあります。事実として正直に話しても、その人の見方や受け止め方あるいは一部の見聞によって真実とは随分と異なるものです。

ではどうしたらよいでしょうか?自分が経験、体験したこと、得た知識は貴重なものですが、すべてそれに頑固に固執しないことです。また他人の話をよく聞いて、他人を尊重し、その人の見方や受け止め方をよく観察し自己消化することが大切です。この世に絶対はありませんし、自分が体験して得たことは、他人も同様に、ほんの僅かにすぎません。「自分が分かったことはこれこれです」「自分が知っていることはこれこれです」と謙虚・素直になって、正直に真実を伝える習慣を身につけることが、将来大をなす基本と言えます。 


以上
創新事業承継プロジェクトチーム 代表 公認会計士・税理士 高良 明

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