承継いろは vol.17
ある企業の事例(仮にA社とします)から、経営戦略や事業承継について考えてみます

1.A社の概要と現状
A社は横浜に本社を置く、戦後間もなく創業した金属加工の老舗企業です。現社長は2 代目で年齢は60 代後半、いまだに元気で仕事に勤しんでいますが、事業承継の準備状況が 気になるところです。
仕事は大手電機メーカーからの受注が多く、横浜だけでなく大手メーカーの工場のある 静岡と群馬にも工場を有し、さらに中国大連にも7 年前に社内の反対を押し切って進出し ています。
また、兄が静岡県で電機関連の製造会社を経営しており、お互いに株式を持ち合い、更 に兄の子供がA社に入社し、現在は大連に半常駐する等、兄弟は仕事上の関連性は薄いも のの良好な関係を保っています。
会社の経営状態ですが、大手電機メーカーの特定分野での再編が吉と出て、減少気味で あった既存分野の生産高が一転増産に転じるとともに、液晶テレビや自動車関連など新分 野への取り組みが功を奏し、過去最高の売り上げと利益を記録。更に中国大連の企業もよ うやく軌道に乗り、A社の利益に貢献するようになってきているところです。
かつての停 滞から現在は良いことずくめのようですが、将来の課題にはどんなものがあるのか考えて みましょう。

2.課題は2 つ
1 つ目は、選択と集中かリスクマネージメント対策か 国内3 工場、海外1 工場体制の評価に関してです。既存分野は国内では斜陽産業に属す る分野ですし、現に数年前には受注も減って赤字基調が続いたため、静岡工場を閉鎖し2 工場に集約することを決定する寸前でしたが、その後受注が反転したため、閉鎖しないで 今に至っています。
しかし、このままでいいのか、或いは選択と集中を行うべきなのか。
しかし、つい最近の新聞によると、東京大学地震研究所が4 年以内にマグニチュード7 台の首都直下地震が4年以内に発生する確率は70%と発表しました。
更に太平洋南海トラフ沿いで発生が予測されている東海、東南海、南海地震も、発生確 率や規模の見直しが進められている状況を考えますと、国内3 工場体制は、結果的には、 地震災害時の代替拠点をどうするかに頭を悩ます他社が羨む恵まれたリスクマネージメン ト体制となっています。
従ってこれを壊すのはリスクの多い時代いかがなものか、との考 えも強いと思います。

2 つ目は、言わずもがなの、事業承継対策です。
考えることは3点、
① 兄の会社とA社の国内3 工場、海外1 工場は、今のところ将来は一人の若者が束ねるこ とになりそうです。もしこの若者が攻めの気質が旺盛であれば、国内4 工場と海外1 工 場を戦略的にフル活用して大ブレークする可能性があります。しかし反対の気質ですと、 重荷以外の何物でもなく、工場の集約化を進め、得意分野の絞り込みを行い、利益重視 の堅実経営に入り込む可能性があります。
② 法制、税制面から見ると、父の会社だけでなく、叔父の会社も継ぐとなると相当複雑そ うです。さらに経営は継がないが相続権のある親族がいれば、仮に争続にならなくとも 一層複雑になりそうです。もちろん2つの会社を経営することの難しさもあります。
③ さらに経営者としての勉強をいつするかです。会社をはなれた場所で、例えば中小企業 大学校の後継者コースに半年ほど入学して、理論と実践を徹底的に学ぶことが本来は望 ましいと思います。
しかし、すでにどっぷり現場にはまり込んでいますので、半年も仕 事を離れるのはとても難しそうです。
実務を通じて経営を学んだり、通信研修で習得す るしかなさそうです。

2つの課題を上げてお気づきと思いますが、複数ある課題や問題は通常相互に複雑に絡 み合っていて、一方を立てれば他方が立たなくなることが多くあります。
1 つの明快な解を 求めるのではなく、多面的に考えて最適解を導き出す能力を養うことが大切であることを この事例は物語っていると思います。
以上
創新事業承継プロジェクトチーム 中小企業診断士  関口 健二

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