承継いろは vol.45

「生前贈与」

 

事業承継を考慮されている方の中には、生前贈与を実行または予定されている方も少なくないと思います。実際に、生前贈与を相続対策として有効活用することができたケースがあることも事実です。その中でも預貯金を介した生前贈与はよくある方法ですが、今年の4月25日、東京地方裁判所において、そのやり方に注意を喚起するような判例がありました。生前贈与した事実は認められず、相続人名義の預貯金は被相続人の財産に帰属するとして、原告の主張を棄却する旨の判断が下された事件です(平成25年(行ウ)第104号・係属中)。

相続人名義の預貯金が被相続人の相続財産に該当するか否かの判断は、過去の判決の積み重ねから、預貯金口座の管理・運用状況等を総合的に考慮して判定することが実務上定着していますが、本件は、認定事実を総合考慮して判断された直近の事例です。本件について、東京地裁は、被相続人が相続税対策として毎年贈与税の基礎控除額の範囲内で相続人名義の預貯金口座に預入れを行っていた事実は認めたものの、その他の事実を総合考慮した結果、被相続人の相続財産に該当すると判断しました。

本件は、弁護士である原告が他の親族らとともに被相続人から相続した財産について相続税の申告を行ったものの、申告した相続財産のうち原告名義の預貯金については、生前贈与を受けたものであるとして更正の請求を行ったところ、税務当局が更正をすべき理由がない旨の通知処分を行ったことで争われました。争点は、被相続人と原告との間で原告名義の預貯金について生前に贈与する旨の贈与契約が成立していたか否かです。

相続人名義の預貯金が被相続人の相続財産に該当するか否かについては、相続税法や通達においてその判定基準や要件は規定されていません。そのため、実務上は過去の判決で示されたように、預貯金口座の購入原資の出捐者や口座開設の意思決定・手続を行った者、預貯金口座の管理及び運用の状況(通帳や証書、印鑑の保管場所等)、贈与契約書の有無などを総合考慮して判定されることが常であり、本件も同様の判定が行われました。その結果、東京地裁は、以下の理由により被相続人から原告に対して、原告名義の預貯金を生前贈与したとは認められないため、被相続人の相続財産に該当すると判断しました。

東京地裁は、原告が「被相続人が原告に対して、毎年、贈与税の非課税枠の限度額の範囲内で贈与する旨約したことで、贈与契約が成立し原告名義の預貯金口座に預入れが行われたことで贈与が履行された」などの主張について検討するため、まず認定事実を下記のとおり整理しました。
1.原告名義の預貯金への預入金額は、毎年、贈与税の基礎控除額の範囲内で預け入れられていた。
2.原告名義の預貯金口座の一部解約に伴い、解約済預貯金を原告に対して現金で交付した。
3.原告は被相続人から届出印の返還を受け所持していた。
4.原告名義の預貯金口座は、いずれも被相続人が自らの財産を原資として開設した。
5.被相続人は、原告名義の預貯金口座に係る一部の解約金を自己の口座に入金し、同口座の資金を土地の購入資金に充て、被相続人名義で土地を取得した。
6.被相続人は原告に対して届出印を返還したが、預貯金に係る証書を自ら保管していた。

東京地裁は、上記の認定事実に加え、預貯金を贈与する旨の書面が作成されていないことも勘案すれば、被相続人は、相続対策として、毎年贈与税の非課税限度額内で、原告ら親族の名義で預貯金の預入れを行っていたものの、預貯金の証書は自ら保管して原告らに交付せず、被相続人自身に具体的な資金需要が生じた際に、必要に応じてこれを解約し、被相続人自ら使用することを予定していたというべきであると指摘しました。
よって、被相続人は、預金口座の開設時やその後の預入れ当時、その預入金額を原告らに贈与するという確定的な意思があったとまでは認められないというべきであるとしました。

預貯金の管理等の取扱いに注意していれば、もしかすると生前贈与として認められていたかもしれない事件ですが、似たようなケースはよく耳にします。安易な判断はせず、専門家のアドバイスを受けたうえでの相続対策をされることをお勧めします。

以上

創新事業承継プロジェクトチーム RMCA-J 認定上級リスクコンサルタント 夘木信寿

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